「喉を開く」について、再度まとめ

ボイストレーニング用語の中でも、「喉を開く」という言葉で検索してくる人が非常に多いので、今まで書いたものをまとめつつ、少し今までとは違った角度から書いてみようと思います。



○何故「喉を開く」必要があるの?


「喉を開く」ということが何故必要かと言うと、「良い発声」のためには、
1.声帯に「適度な力」を入れ、首や喉の「ものを飲み込むための(発声に本来関係無い)筋肉」に力が入らないようにする
2.喉から口にかけての空間を整え、呼吸の流れを妨げないようにし、よく声が響くようにする
ということが必要だからです。



○「喉を開く」とはどういうこと?


声楽的な意味での「喉を開く」とは、「軟口蓋を引き上げ、喉仏を引き下げる」ことです。
イメージ的には、「喉を上下に開く」感じです。
軟口蓋が上がることによって喉の奥の空間が広くなり、また、鼻腔にも声が響くようになり声の「響き」が良くなります。
また、軟口蓋を引き上げようとする力によって、声帯が伸びながら締まります。
喉仏を引き下げる力にも同様の働きがあります。
そして、喉仏が低い位置にあると、「ものを飲み込むための筋肉」が使われない状態で発声することができます。
この「喉を上下に開く」ことが、一般的に言われる「喉を開く」です。


それとは別に、首や喉の「ものを飲み込むための(発声に本来関係無い)筋肉」を使って、無理な力で声帯を締めている場合は、その力を抜いて、声帯を少しゆるめてやる必要があります。
この「無理に締められている声帯をゆるめる」ことも、「喉を開く」と言う場合があります。
イメージ的には、「喉を左右に開く」感じです。
「喉を上下に開く」と「喉を左右に開く」は全く別の動きであり、全く別の結果になることもありますので注意してください。
「左右」では声帯をゆるませることが目的ですが、「上下」ではむしろ声帯は締まります。


さらに、「舌が力んで喉の奥の空間が狭められている/喉が力んでしまっている」という場合には、舌の力を抜いて少し前に出してやる必要がありますが、そのことも「喉を開く」と言ったりします。
イメージ的には、「喉を前後に開く」感じです。



○「喉を開く」ためにはどうすればいいの?


まずは、自分の喉が「どう閉じているのか?」というところを注意深く観察する必要があります。
例えば、喉を上下に開けていなくて声帯が十分締まっていない人が、「喉を開かなきゃ!」と考えて喉を「左右に」開こうとし、力を抜いて息混じりの声を出そうとした場合…
息が声に変換される効率が悪く、息漏れの音ばかりして、どうにも「良い声」からは遠ざかってしまいますね。
また、このような「声の効率の悪い状態」は意外に喉へのダメージが大きく、実は危険な状態なんです。
「腹を下しているのに下剤を飲むような真似」はしないように!


それぞれの「喉を開く」ができていない場合の「症状」と「処方」を挙げると、


1.「喉を上下に開く」ができていない場合
・喉仏が上がって、首などに力が入る
・十分な「響き」の無い「幼い声」「かたい声」「浅い声」になる
・必要な力が入っていないので「暗い声」「不機嫌そうな声」になる
・声が息混じりになる
・特に高音になると上のような状態になる


→このような場合、「軟口蓋を引き上げ、喉仏を引き下げる」必要があります。
「軟口蓋を上げる」というのは、慣れない間は感覚がつかみにくいと思いますが、喉の状態を「あくびの時の喉の状態」「ゲロを吐く直前の状態」にして声を出し、軟口蓋が上がった状態というものを身体に覚え込ませるといいです。
喉仏も慣れると動かせるようになりますので、「低い声を出す」「BoとかDumと発音してみる」などして、喉仏を意識的に下げられるようにしましょう。
あとは、「左右の奥歯で何かを噛む」と喉が上下に開きますので、割り箸とかを奥歯で噛みながら声を出す、という練習も有名ですね。
一部では、発声のための「筋トレ」の一環として、この「引き上げ、引き下げ運動」をやっている人もいるそうです。
あんまりやりすぎると嚥下障害になるという都市伝説(そんなに「引き下げ筋」が強くなることはたぶん無いだろうけど)もあるので、強くお勧めはしませんが、意識的に動かせるようになるくらいには「筋トレ」のようにやっておくと、ボイトレをやっていく上で何かと便利です。


また、表情筋を正しく使うと無理なく喉が上下に開きますので、発声するときの表情にも気をつけましょう。
目を見開き、鼻の穴を開き、口角を軽く上げるというのが、発声の基本です。



2.「喉を左右に開く」ができていない場合
・声に「ノイズ」が混ざる
・「あ」が「あ゛」になったり、母音が濁る
・首の「歯を食いしばると見える筋」が、発声時に常に浮き出ている
・喉仏が上がる、声の響きが悪い、などは「上下」の場合と同じなのですが、「軟口蓋が上がり、喉仏が下がっている」状態でもそのような症状が出るなら、「喉を左右に開く」必要があるかも知れません


→力んでしまう理由は様々だと思うので、力みを抜く練習をすると同時に、何故力んでしまうのか?ということも考えるといいかもしれません。
首の力みをとるためには、首を左右に軽く振りながら声を出す練習などがあります。
また、声を出す前に念入りにストレッチをするとか。


表情については、眉間にしわが寄ったり、口角が下がって口の形が△になると、とても喉が力んで固まってしまいやすいので注意が必要です。


過去にこういうタイプの人を観察したところ、
「声帯がきつく締まっているのでもっと強いブレスが必要→強いブレスに耐えるために声帯をもっと締めなければいけない→以下ループ」
という軽い無間地獄状態だったので、あえて「ハスキーな声」を出して貰って、「そんなに力入れなくても十分声は出るんだよ」「自分にはもの凄いハスキーに聞こえても、外から聞くと意外とそうでも無いんだよ」ということを知って貰いました。
こういう「一度逆の方向性に思い切り振ってみる」というのも、ときにはありです。
あとは、「はっきりした声」を出したがる人ほどこういう無間地獄になりやすいので、自分にとってベストな「声立て」を探ってみるのも良いかもしれません。



3.「喉を前後に開く」ができていない場合
・「側鳴り」(響きが外に出て行かず、自分には良い声・大きい声に感じるけれど外から聞くとそれほどでも無いという状態)になる
・口が大きく開いているのに声がこもる
・鼻腔共鳴の強すぎる、「粘っこい声」になる


→いわゆる「クネーデル(団子声)」「似非オペラ声」ってやつですね。
本人にとってのみ気持ちいいという、ある意味最悪な声です。


「喉仏を下げよう」という意識が強すぎてこうなる場合と、舌が不器用でこうなる場合の2通りが考えられます。
前者なら、少しその意識を弱めたり、舌を前に出したままでも喉仏を下げられるように練習したりすることで、治すことができるかもしれません。
たぶん、無理矢理喉仏を下げた声より、喉仏が下がりきって無くても適度に力の抜けた声の方が素敵です。
後者なら、エリック兄さんのボイストレーニングに「舌を自由に操るためのトレーニング」がありますので、それをお勧めします。



○今まで書いた記事


最後に、今まで書いてきた「喉を開く」関連の記事を紹介します。
これを読んだあとなら、もっと理解しやすくなったはず。


・喉を開くということ - 烏は歌う
http://d.hatena.ne.jp/wander1985/20090517/1242534705


・もう一つの、「喉を開いた発声」 - 烏は歌う
http://d.hatena.ne.jp/wander1985/20090628/1246165906


・典型的なダメ声、「喉声」とは? - 烏は歌う
http://d.hatena.ne.jp/wander1985/20090328/1238225688


・「逆転の発想」による喉声解消法 - 烏は歌う
http://d.hatena.ne.jp/wander1985/20090804/1249394046