2−1 発声に必要な息のコントロールとは

1 目次

2 発声の3要素、息・声帯・共鳴
2−1 発声に必要な息のコントロールとは
 ・発声のために必要な呼吸とは…
 ・腹式呼吸と胸式呼吸
 ・腹式呼吸が重要視される理由
 ・発声のための腹式呼吸とは
2−2 声帯についての基本的な知識
2−3 声と共鳴について


○発声のために必要な呼吸とは…


発声における呼吸の重要性は改めて書くまでもないかとは思いますが…
声は、肺から吐き出される息が声帯を振動させることによって生じますので、呼吸は言うなれば「声の源」となります。
では、「良い発声」「思い通りの発声」のためにはどのような呼吸が必要となるのでしょうか。


必要になってくるのは、「思い通りにコントロールできる呼吸」となります。
出したい声を出すためには、当然それに合わせて呼吸をコントロールしなければならないので。


声の「入り」から「終わり」まで、適度な強さ・圧力の呼気を出していく必要があります。
呼気の圧力が急激に掛かったりいきなり抜けたりするようではまともな発声ができないので、呼吸の安的感は声のコントロールのために必ず必要となってくるでしょう。
また、安定していればいいってわけでもなく、掛けたいときには一瞬で適切な呼気圧を掛けられる柔軟さや瞬発力もないと、大きな声を出したり声の出始めを正確に出すことができません。


「肺活量」や「呼気の絶対的な強さ(腹筋の強さなど)」…についても、発声・呼吸についての話になるとあがることがありますが、これは「あったらあったで良い」くらいなもので「必須」というものではありません。
というのも、声帯で受け止めきれる息の量、強さには限りがあるからです。
力任せに大量の息を送り込んでも、声帯で声に変換できなければ声にならないし、強すぎる呼気は声帯にダメージを与えてしまうことさえあります。
なので、どちらかと言えば「強さ」よりも「コントロール」を重視して、効率良く息を声に変えていくことを大切にしよう…というのが、ボイストレーニングの基本です。


吸気については、詳しくはあとで説明しますが「力まず」「適量を」吸うことが重要となります。
吐くときも同様ですが、呼吸によって身体が力んでしまって発声に支障が出る…という状態では、どんなに呼吸をコントロールできても意味がありません。
なので、呼吸を自由にコントロールするという方向に加え、「喉などが力まない呼吸」という方向も目指していかなければならないです。



腹式呼吸と胸式呼吸


腹式呼吸」と「胸式呼吸」という言葉が、ボイストレーニングではよく使われます。
呼吸とはつまり「肺の空気の出し入れをすること」ですが、肺自体を動かすことはできないので、肺のまわりの空間を膨らましたり縮めたりすることで肺を間接的に動かすこととなります。
その「肺のまわりの空間の膨らませ方」の違いによって、呼吸は「腹式呼吸」と「胸式呼吸」の2種に分けられます。


腹式呼吸…肺の収まっている空間(胸郭)の下にある横隔膜を上げ下げし、それによって肺の空気を出し入れする。
・胸式呼吸…肩を上げ下げしたり、肋骨を開閉することによって肺の空気を出し入れする。


要するに、横隔膜より下を動かして横隔膜を動かすのが腹式呼吸、横隔膜より上の胸郭を動かすのが胸式呼吸。


それと誤解されがちなのですが、腹式呼吸と胸式呼吸は決して「対立概念」ではありません。
腹式呼吸しながら胸式呼吸をする」ということも可能です。
…たまに、肩や胸がちょっとでも動いただけで「腹式呼吸ができてない!」と怒り出す人もいたりするのですが、それはちょっと正解じゃない…と言っておきましょう。
また、胸式呼吸を抑えるために肩や胸を「一番縮めた状態」で固定し、腹式呼吸しかできない状態で発声させる…なんて指導者もたまにいますが、それもちょっと問題ありかと。
姿勢も悪くなりがちですし、胸郭が狭まることのデメリットもありますし、なにより「精神的に萎縮」してしまいやすいので。
あんまり胸式呼吸を毛嫌いしすぎず、あんまり気にしないで「肩や首まわりの力を抜いて深い自然な呼吸をする」というイメージを大事にしていくことが重要だと私は考えています。



腹式呼吸が重要視される理由


「発声といえば腹式呼吸が大事」ということは広く知られていますが、その主な理由は下の2つです。


腹式呼吸は、吐く息をコントロールしやすい
 胸式呼吸は、吸気は速くて強いが、呼気力をコントロールできない
腹式呼吸は、吸う時も吐く時も「声に負担のかかる力み」が生じにくい
 胸式呼吸は、肩や首などに余計な力が入りやすい


こういう理由があり、ボイストレーニングでは大抵の場合、胸式呼吸よりも腹式呼吸が勧められています。


もちろん、特定の効果を狙ってときどきわざと胸式呼吸で話したり歌ったりする優秀な「声の使い手」は多く存在しますが、基本はあくまで腹式呼吸と考えるべきでしょう。


特に、「肩式呼吸」とでも言うべき、肩が上下する胸式呼吸
・肩、首に余計な力が入り、声帯の動きの邪魔をする
・非常に「浅い」「速い」呼吸となり、充実した声が出せない
という問題があるので要注意です。
それと、「息を吸う時に喉が大きく鳴る」という症状が胸式呼吸では出やすいと言われています。
この症状は、首や喉、特に喉の「ものを飲み込むときに働く筋肉」に力が入ると起こりますが、この状態で発声すると、喉に大きな負担がかかります。
そういう症状を抑えるためにも、腹式呼吸が勧められています。



○発声のための腹式呼吸


では、発声のために必要な腹式呼吸の方法について少々説明します。


まず大切なのは、呼吸筋をしっかり使うこと。
呼吸筋と言っても、腹筋≒腹直筋(お腹の前面中央に縦に走る、一番わかりやすいお腹の筋肉)」だけのことではありません。
腹斜筋などの腹直筋以外の「腹筋」や、お腹まわりを一周して脇腹や背中の筋肉、さらにはお尻の筋肉やそれを経由して足の筋肉…と、幅広い筋肉を使ってやることが必要となります。
この身体の使い方を理解するために一番わかりやすい方法は、「とにかく限界まで息を吐ききってみること」です。
普通「腹筋」と呼んでいる部分以外の、腹の内側の深い部分や脇腹や背中や足など、普段使っていない筋肉に力が入るのがわかるかと思います。
こういった部分をフルに使えるようになれば、とても強いのに柔軟な呼吸ができるようになり、また喉などに「発声を邪魔するような力」が入らなくなり、より声を使いこなすことができるようになります。


加えて大切なのは、「しっかり吐く」「吐ききる」ことを強く意識し、「吸う」ことについてはあまり意識せず「自然に任せる」こと。
息を吸おうとし過ぎると、前述した「喉が鳴る」という状態になりやすいです。
さらに、息を実際に吸い過ぎてしまうと、それをキープするために上胸部や喉が力んでしまい、発声の妨げになります。
なので、「呼吸筋を使って息を吐ききる」→「力を抜く」→「ゆるんだ身体に反動で空気が自然と入ってくる」という呼吸が重要です。
ついでに書いておくと、「息を吸った直後」の瞬間というのは、実はもっとも息を吐きにくい状態であると言えます。
なので、「声を出すぞ!」と思った瞬間に「大きく息を吸って…」では、声が意外と出しにくい。
そういう事情もあるので、やっぱり「吸うぞ!」という意識はあんまり強く持たない方がいいです。


最後に大切なのが、呼吸のイメージをしっかり持つこと。
息の出て行く「軌道」というか「軌跡」というかをイメージすることによって、声をコントロールしやすくする効果があるからです。
例えば、ボイストレーニングの現場では、よく「頭のてっぺんから声が出るようなイメージで!」とか「口の前に置いた蝋燭の火を揺らさないような息の吐き方で!」とか言いますが、このようなイメージで声を出すと「安定して呼気の圧力を掛けられる」「息の無駄遣いをしにくくなる」「喉の奥や鼻腔の空間が広がって声が響きやすくなる」という効果があったりします。
また、息を吸うことに関しても、(実際には横隔膜より下に息が入ることは無いけれど)「息がしっかりお腹の奥まで入ってくるイメージ」「息が背中にも入ってくるイメージ」「息をお尻のあたりまで吸い込むイメージ」…などを持つことが重要です。