5−2 発声と姿勢

1 目次


5 全身を使った発声とは
5−1 発声と身体の各部位の関係
5−2 発声と姿勢
 ・良い姿勢とは
 ・良い姿勢の作り方
 ・重心と声の関係


○良い姿勢とは


発声にとって「良い姿勢」とは、まず、
・余計な力が入らない
・必要な力を入れやすい
という両方を実現できる姿勢でなければなりません。


身体に余計な力が入ると、思い通りの声を発声することは難しいですし、非常に疲れやすく喉も痛めやすくなってしまいます。
なので、余計な力の入らない姿勢をとること、身体の柔軟性というか「遊び・余裕」を常に維持することが重要です。
そうしておけば、必要な時に必要な分だけ力を入れることもやりやすくなります。
とにかく身体を出来る限り固めず、柔らかく、どの方向にでも動けるような状態に保つことが、大切。


「良い姿勢」と言うとどうしても「静的なもの」をイメージしてしまいがちですが、発声における良い姿勢は非常に「動的なもの」であると私は考えています。
その理由はまず、発声に伴って腹筋や背筋などはフル稼働しますが、その動きを「身体を静的に固定すること」で受け止めようとするとかなりの「力み」「無理」が生じるので、ある程度「動的に受け流してやる」必要があるからです。
また、「発声による表現」においては、一声ごとに「表現したいもの」は違ってくるとおもうので、それぞれに最適な姿勢をとろうとすれば、とても「静的」ではいられず、常に「動的」である必要があります。
「大きい声」を出したいときと「小さい声」を出したいとき、「強く明るい声」を出したいときと「優しく穏やかな声」を出したいとき…など様々な声がありますが、当然それぞれ姿勢のあり方は変わってきますし、使い分けをするためには、その時々に応じて姿勢も変えていかなればなりません。

 
だから、「良い姿勢をとりなさい!」と言われると「気をつけ」の姿勢で「直立不動」になってしまいがちですが、それはむしろ逆効果になってしまいがちなんですね。
「直立不動」で全身が硬直した状態で声を出すくらいなら、むしろ「格闘技のファイティングポーズ」とかでステップでも踏みながら声を出した方がいい声が出ます(時と場合にもよるけど)。
立ち姿勢なら「ある程度まっすぐ立ち」「自由に重心を動かせるように足を前後左右に軽く開き」「身体のあらゆるパーツが自由に動かせるように身体の力を抜きつつ、動きに備える」という意識でとりあえずは大丈夫かと。
「まっすぐ立つ」のは、「身体を前後左右に動かさない」ことが目的なんじゃなく、「前後左右にどうとでも動かせるニュートラル状態」に身体を保つことが目的であるということは、覚えておいてほしいな、と思います。


・関連エントリ
「全身を使った発声」になるためのトレーニング(逆転の発想編) - 烏は歌う



○良い姿勢の作り方


さて、具体的な話をすると、発声時の姿勢でとにかく問題になりやすいのが「腰」「肩」「首」の3点です。
発声時に身体は自由に動かせるように…と言っても、やっぱり「やらないほうがいい姿勢・動き」というのはあるので。
それぞれについて説明していきましょう。


・腰
腰(背中)が大きく反ってしまうと、呼吸が浅くなってしまいますし、腹筋背筋が使いづらくなって腰痛や疲労の原因となります。
「背筋をのばさなきゃ!」「胸を張らなきゃ!」という意識が強すぎるとなりやすい姿勢で、「お腹を前に突き出した姿勢」「お尻を後ろに突き出した姿勢」という形で現れやすいです。
あと、普段猫背の人が上体を無理矢理起こすと、特に腰が反りやすいので注意。
とりあえず対処法としては、「お尻に軽く力を入れて立つ」「足を前後に大きめに開いて立つ」「軽く後ろ体重気味に立つ」…あたりです。


・肩
肩が前に出てしまうと、猫背になったり胸郭が狭まったりして「弱々しい声」になりがちですし、顎を前に突き出した姿勢になりやすくなって「喉声」になってしまったり、肩こりの原因にもなります。
骨格や筋力などの体格の問題だったり、デスクワークが多いなどの生活習慣の問題だったり、とにかく現代日本人はこの姿勢になりやすいらしいです。
対処法としては、「軽く胸を張る」「肩甲骨をほぐしておく」「手を動かしながら発声する」など。


・首
首、というか頭が前に出てしまうと、頭の重みを支えるために首に負担や力みが生じ、声質が不快な感じに浅くなったり固くなったりしやすくなりますし、肩こりや首痛の原因にもなります。
頭は「身体の重心の真上にゆったりと位置する」というのが理想ですが、肩と同じ理由で放っておくとどんどん前に出てきます。
対処方としては、「しっかり顎を引く(と言うよりは、頭全体を後ろに引く)」「頭頂部の髪の毛を真上〜斜め後ろに引っ張ってみる」など。


・その他
あとは、とにかく「本来クッション性のある部分を固めてしまわない」ことが大切です。
特に「ひざ」とか「背骨」とか「股関節」とか、「姿勢を良く!」と意識すると固めてしまいやすいんですよね。
しかし、ここが固まってしまうとしなやかに動けなくなりますので、常に「クッション感」をなくさないように気をつけましょう。


詳しい解決法は、過去エントリでどうぞ。
発声と姿勢 - 烏は歌う


広瀬香美流「お尻の穴歌唱法」 - 烏は歌う


姿勢を良くする簡単エクササイズ2つ - 烏は歌う


毎日の身体のメンテナンスに、「背中」のリラックスを。 - 烏は歌う



○重心と声の関係


「重心をどこに置くか」によって、声は地味に大きく変わってきます。


一番わかりやすいのは、身体を「前傾」気味にするか「後傾」にするかによる声の違い。
前傾気味の姿勢で発声すると、より「圧迫感」や「真剣さ」を感じさせ、ときに「攻撃的な印象」の声になります。
後傾気味の姿勢で発声すると、「開放感」や「ゆとり」や「包みこむような感じ」を感じさせる声を出すことができます。


他にも、重心を「高く置くか、低く置くか」とか、「身体の真ん中に置くか、左右どちらかの足に体重を乗せるか」などによって声を出す身体の有り様、声の印象は全然変わってきますので、色々試してみたり、演出したい声質によって重心の位置を使い分けてみてほしいですね。


それと、発声のときの姿勢について、「足をどのくらい開くのか」というのは色々言われていますね。
「肩幅くらいがいい」というのがよく言われていますが、肩のどこに足のどこを合わせるかによって、全然幅がありますし…。
で、最初に結論を言っておくと、「足をどのくらい開くのか」という問いに、答えはありません。
と、言うのも、やっぱり「時と場合による」ってやつだからです。


基本的には、足を(左右だけでなく、前後にも)大きく開くほど重心は低くなり、身体全体が安定しやすく、自由に重心が動かせるので色々な表現を使い分けることができるようになる上に、楽に力強い声が出せ、疲れにくくなります。
足を全く開かない状態では、ちょっと重心を傾けただけでよろけてしまったり力んでしまったりしてしまいますもんね。
なので、「発声のための姿勢としては、ある程度足を開く」というのが一般的です。
あと、軽くつま先は開いたほうが、安定感も増すしお尻に力を入れやすくなるのでお勧め。
ただ、足を開き過ぎると逆に動きづらくなりますし、「重心を高くとった」発声ができなくなりますので、いくらでも足を開けばいいってわけでもないです。
なので、「したい表現」や「その日の身体的コンディション」とかに応じて、「しっくり来る」歩幅を探っていくしかないのかな、と思っています。


あと、姿勢は「見た目と相談する」ことも大切だったり。
ポップスやロックを歌うときに「足を揃えて気をつけ状態」では「…昭和?」って感じになってしまいますし、逆にコンサートホールでタキシードやドレスを着て「大股開き」とか「片足に体重乗せてパンクロッカー風に斜に構える」…ってのもなんだかおかしい。
TPOってやつを意識すると見栄えもいいですし、「様式美」ってのは「実用性」も兼ねている場合が多いので、そのジャンルの「上手い人」を見る際には、声だけでなく姿勢、重心、表情、佇まい…なども観察して真似してみるのが上達への近道です。