声の大小・強弱「で」どう表現するか、声の大小・強弱「を」どう表現するか

声の大小・強弱について


作曲家であり、合唱団の指揮者でもある長谷部雅彦氏のブログで連載されている、「楽譜を読む」シリーズを最近私は愛読してます。
楽譜を書く作曲家という立場と、楽譜を読み解いて形にする指揮者という立場の両方から色々なことを考察して書いていて、とても面白い。
また、「音楽家」としてだけではなく「技術者」としての顔ももっていて、考え方がなにかと理系な私にはすごく共感しやすい文章・考察内容でもあるところもポイント。


で、最近面白いな、と思った記事がこれ。
アルス・ポエティカ〜音と言葉を縫いつける: 楽譜を読む ─ 強弱記号 ─

音量というのは、そもそも非常に曖昧な指示です。
ピッチや音程というのは計測可能だし、いくらでも精度を高めていくことは物理的に可能です。テンポについても絶対値的な計測はできるし、rit. や accel. などはみんなが同じテンポを共有しないと音楽が揃いません。
ところが、音量というのは少なくとも音楽において物理量を規定することはほとんど不可能に近いパラメータです。声楽の場合、人によっても声の大きさはかなり違います。
合唱団によっては、ソプラノが多かったり、ベースが多かったり、声の大きい人がいるパートが偏っていたりするわけです。つまり、合唱曲の場合、最初から理想の音量バランスというものが再現される可能性は非常に低いのです。
だから、本来絶対値としての音量表記は不可能なのです。

音量はどうやっても相対的な指標でしかありません。この事実を感覚的に理解しているかいないかで強弱記号に対する態度も変わってくるのではないかと感じます。
書いてある強弱記号を絶対音量に単純に換算するような態度は、曲の本質に辿れないことでしょう。
つまり強弱記号こそ、なぜ作曲家がそういう指示をしたのか、という理由を読む取りそこから個別事情に敷衍していく必要性が高いのです。


音量の計測・調整の難しさ、とくに「絶対値」として音量をコントロールすることの難しさは、歌を歌う人なら気づいていることでしょう。
例えば昨日「フォルテのつもり」で出した声の声量を、絶対値として今日ぴったりと再現できるか、再現できたと胸を張って言えるか…といえば、非常に難しいですよね。
昨日「C3」として出した音を、今日も同じく「C3」として出すこと、出したことを確認することはとても簡単ですが。
また、音量は環境によっても大きく変わってきますし。
相手との距離、声を出す空間の広さや響き具合…などによっても全然違いますし。


だからこそ、「音量」というものは「絶対値」として「どのくらいの音量だったか」よりも、聞く人がそのときの「音量」を「どう感じたか」であったり、「音量の変化によって何を感じたか」が大切なわけですね。
なので、「なぜ」音量を強くしたり弱くしたのか、「ねらい」をしっかり持って、そのねらいを実現できるようなやり方の工夫を考えることが非常に大事です。


例えば、何か「表現したいもの」「演奏・話・感情のエネルギー」が高まってきたことを表現するために音量を大きくしたい!というときには、他の高まっていない部分よりも相対的に音量があることももちろん大事ですが、「声質」や「テンポ」や「微妙な音程」や「音の入り方・終わり方」…などなどもコントロールして、より「高まっている感じ」を表現したいところですね。
音量自体の操作よりも、「より強く感じさせる発声をすること」の方が大事な場合さえあります。
それに、物理的な音量を2倍にすることは非常にしんどいですが、音量操作に加えて発声をいじることで倍以上のエネルギーを感じさせるというのは意外に簡単だったりしますし(あくまで、個人の感覚にもよりますが)。


また、ある「感情」が高まってきたことを表現したいから音量を大きくしたい…ってときには、音量の絶対量だけでなく、表情であったり、身体の使い方であったり、感情であったり、そういうものを大きく変化させてやることによって、より表現力が高まり、実際の音量の絶対量の変化以上にインパクトを与えることができます。


もちろん、表現したいもの・エネルギーは変わらないけど、音量だけ変えたい!ってときもあって。
例えば、「ゆったりした声質で語りたい・歌いたいんだけど、会場が広すぎ&響かなさすぎで音量絞ったら大変なことになるぞこりゃ」とか、「曲の雰囲気・テンションは変えたくないから声質変えたくないんだけど、他のパートを聞かせたいから音量だけちょっと落としたい」とかね。
こういうときは、「実際の音量は大きいまま、声質だけ弱く声を出しているように聞かせたい」とか「実際の音量の絶対値は抑えつつも、強い声を出しているように聞かせたい」とか、かなりしんどい工夫をしなくてはなりませんね。


音量操作の一例


で、そんな工夫ですが、例えばこんなやり方があります。


弱い音が音痴に聴こえてしまう 弱い音が出せず声を張り上げて歌ってしまうその理由 弱い音を出す方法と簡単なトレーニング:永井千佳の音楽ブログ:ITmedia オルタナティブ・ブログ

特に歌は、物理的に強弱の差がつきにくいと言われています。
しかし上手な人は、それをいとも簡単にやりとげるように聴こえますね。
 
一体どのように歌っているのでしょうか?

それは、物理的に強弱をつけるのではなく、音色によって強弱をつけているのです。
 
「小さく歌おう」と思うと、息をひそめる感じになってしまいます。しかし、このとき息を細く減らしてはしてはいけません。

そのときに大事なのが、声帯の閉鎖をゆるくすること。
声帯の閉鎖をゆるくするとは、 「息混じりの声」ということです。

息を多く使い、声帯の閉鎖をゆるくした声は音色がやわらかくなり、より弱く聴こえます。
 
声帯の閉鎖を強くして息をたくさん使うと、強い音(フォルテ)になり、息はたくさん使うけれども声帯の閉鎖をゆるくすれば弱音(ピアノ)になるといわけです。


音色によって強弱をつける方法の一例ですね。
声帯を強く閉じて、声帯同士が厚く強く接すれば「強い、大きい音量に聞こえる音色」になりますし、声帯をゆるく閉じて、声帯同士があまり接しないようにすれば「弱い、小さい音量に聞こえる音色」になるんですね。


他にも声の印象、音色を変える方法は色々とあることにはあるのですが、とりあえずこのやり方が一番手っ取り早いかと思います。
なので、とりあえず今日はこれだけ紹介しておしまいということで。