歌手の評価って難しい。


噂の某アニソングランプリ騒動についてTwitterで色々とつぶやいてたら結構反応が多かったので、色々まとめてみる。
状況としては、「グランプリの人が歌唱力低すぎ!」というので炎上しているという感じですね。


前書き(書く前から言い訳とも)


あくまで、素人の戯言です。
また、アニソンに対する熱意とかの諸々はそんなにありません。
わざわざ自分にとって関係ない、燃え上がりそうな話題に手を出すのはあんまり得な話でもないのですが、自分の音楽観とか声についての色々を考えなおすのにいい感じのネタなので、ひっそり書きます。


そもそも、評価の軸はどこ?


アニソングランプリという企画についてそれほど詳しくはないので断言はできないのですが、
「アニソンが上手い人を集めてコンテストをしよう!」
「アニソンを題材に、新人オーディションをしよう!」
という、2つの企画の軸が、というか建前と本音の両立が難しくなってきての、この騒動じゃないかなーと思う。
ぶっちゃけ、前者に徹すれば徹するほど、後者が厳しくなるという。


うん、こう言うと、「一番歌が上手いやつがデビューすればいいんじゃないの?」と思うかもしれない。
俺もある程度はそう思う。
でも、「アニソン大会」って、ある意味「ものまね大会」みたいになっちゃうリスクってのが常にあって、「ものまね歌手」を「歌手」としてデビューさせるのは非常に困難なことなんだ。
これについて、何故なのかは非常に説明しづらいので察して欲しい。


また、素人耳にはヴィブラートやいわゆる小節(こぶし)とか、声質の癖つけみたいな、歌い方の「癖」が多ければ多いほど「歌唱力」が高いと思われがちなんだ。
でもこれも、プロの目から見ると「使える癖」と「使えない癖」があって、使えない癖を取り去るのは、使える癖を習慣づけるのの何十倍もの努力と苦労が必要なんだ。
だから、アニソンをアニソンらしく歌いこなせる人ほど、プロデビューさせようと思うと、遠い道のりを経る必要があるというか、ギャンブルなんですよ。
ブコメで「癖」と「技術」は別物だ、というツッコミが入ったけど、まあ「癖」を離れて「技術」の域まで昇華させきったほどの歌い手は他も聞く限りあんまり…という前提がありましてね。)
なので、デビューを視野に入れたら「逆にあんまりアニソン歌い込んでなさそうな天然素材的な人」を採りたくなっちゃう気持ちは非常にわかります。
…でも、「 ア ニ ソ ン グ ラ ン プ リ 」なのにそれってどうよ、と言われれば何も言えねえ。


さらに言っちゃえば、プロデビュー考えたら、「声質」が全てなんですよね、ぶっちゃけると。
徳永英明小室哲哉の対談より↓。
TKMC ARCHIVES NON EDIT TALK

徳永:
でもヴォーカリストのチョイスの仕方がウマい。
小室:
まあ、たまたまかもしれない。そうですね、さっきいった声質が「これは世の中の人が、絶対、気持ちいいと思う声だ」っていうのはね、思いますよ。
徳永:
だってそれだもんね。
小室:
それなんですよ。
徳永:
もう、絶対いろんなさ、デビューした新人とかが出てきて聞いた時に「なんでこれがレコードになってんだろうか?」って思うのとかあるじゃないスか?そのサウンドいくら渋くやってても、声のその倍音であったりとか、もう絶対声しかないわけで、もう変な話、ピアノ一本でぜんぜん問題ないわけで。だからもう、なんていうのかな?微妙な癖になる声を選びません?まあ変な言い方だけど、松本伊予ちゃんがデビューした頃に、変わった声っていうか、すごい鼻に詰まった声だなって。だけど三日聞かないと、なんか「ああ、聞きたいな」っていうその、いつの間にか癖になってしまっているっていう。だから小室さんが選ぶヴォーカリストの声ってのも、なんていうのかな?歌唱力があるとかないとかっていうことよりも、ここのない部分のここらへんに残ってしまうっていうか、癖になってしまうヴォーカリストの声っていうか。
小室:
そうですね。まあぜんぜん歌唱力じゃないですね。声質だけですね。

…ってな具合に。前後でもちょっと似たような話してます。
「オーディション」(しかも、厳選したハイアマチュアをより集めたものではなく「お祭り」で、かつ「原石発掘」「シンデレラ募集」みたいな趣旨のオーディション)という視点で見ると、欲しいのはぶっちゃけ、ぜんぜん歌唱力じゃないですね。声質だけですね。
他の歌手もさっと聞いてみたけど、「スペシャルな声質」の持ち主はグランプリの人くらいだな、とは思った。
さらに最近のアニソンの流行りから考えると、デビュー視野に入れたらああいう甘め軽めであんまり装飾付けずに、張って出すと細い芯があって、高音を素直に出せるタイプの歌い手じゃないとキツイでしょう。
…でも、「アニソングランプリ」なのにそれってどうよ、と言われればそれで評価していいのかよとは思いますよねえ。


あとね、声質の話をもう一つすると、「オケ・バンドとの相性」ってのが非常に大事なんだけどさ。
このグランプリ、歌をそのものだけでハッキリ聞かせるために、オケが「相当ちっちゃい&ハイパー安っぽい」ですよねー…。
このグランプリの人は、そのせいで相当損してるなー、と思います。
生かし生かされるタイプの気の利いた楽器隊が入れば、それだけで随分印象変わるだろうなあ…と。
逆に、この環境で「イイ声だけど、ちょっとこもってるようにも聞こえるな」って人が何人もいると思うんですけど、そういう人をCD仕様の生音のオケやら普通のライブ環境やらに叩きこむと…声だけたぶん綺麗サッパリ消えます。マジで。
そういった事情も考えないと、今回の選考の意味はわからないかと。
…でも、「アニソングランプリ」なのにそれってどうよ、と言われれば以下同文。


そんな感じで、「アニソンが上手く」かつ「プロデビューできる素材」が居れば文句なしにその人を選べば万事OKだったんだろうけど、そうそうそんな人が現れるわけもなく、じゃあどうすんのよ、という話になったときに、「プロデビューさせたい素材」を選んだ審査員…との予想。
それと、この大会に関わるその他の人の感覚のギャップ(一番上手い&アニソンらしい歌手がグランプリをとるべきだろ!)が、今回の炎上の原因でしょうね。
まあ、審査員の「アニソンをアニソンらしく、一番上手く歌えるアマチュア人材」よりも「プロの歌手としてやっていける可能性のある、アマチュアとしてもプロフェッショナルとしてもまだ未成熟な人」を選んだという判断はある意味「飯のタネ」考えたら妥当としか言い様がないんですが、まわりから見たら確かに「アニソンの冒涜」「グランプリの冒涜」とも取れるし、「アマチュアリズム」の否定とも取れるかもね。
それこそ、「○○プロ・スター発掘!!」とかって名前だったら別だったのかもしれないけどさ。
私も、審査員の判断はよくよくわかるのですが、「大会の価値」「アニソンの伝統と発展」を考えたらこの大会これでいいの…というファンや水木御大の意志もよくわかります。
どっちもわかるだけに、問題は問題としてあるけど、それにしても審査員&グランプリの人が叩かれすぎだろう…というのがこのエントリを書き上げるに至った衝動です。


歌唱力のお話


あとさー、動画やらその他諸々についたイナゴ的Disコメントがほんと気持ち悪くてさー。
「俺が歌った方が上手い」とかさー、「音痴」とかさー、「声量が無い」とかさー。
確かに基礎的な歌唱力やアニソンっぽさで上回っている参加者がいたことは事実だけど、そんなに人格否定はじめ酷すぎるコメントをつけまくられるほどのもんじゃなかっただろう、という判官贔屓的な衝動に駆られてこのエントリ書いてます。


まず、あの大ホールやら特殊なPAやらの「異常な音響空間」の中で歌うってだけで相当な困難だよ。
普段カラオケボックスとかでしか歌わない人にはわからないだろうけど、広い会場ってだけで相当歌いにくくなるもんだよ。
俺も合唱やっててホールで普段通り歌えるようになるまで何年かかったかわからんし、実際まだ思い通りにはできてないのかもしれない。
歌手は「喉」よりも「耳」が大事、というのはよく言われるんだけど、ちょっと会場が違うだけで聞こえる音って全く違うからね。
すっごい場数を踏んでる人でも、調整が上手くいかないと音程がぶっ壊れることがあるくらい、大きなホールってのは怖いものなんだ。
まして、それに慣れててかつ専属PAチームとかがついてるプロなら別だけど、素人ならほぼ「未体験ゾーン」な音響空間で、そこで実力を出せるってだけで相当すごいもんだと思う。
さらにあの観客の前で歌う緊張感とかも考えると、「俺が歌った方が上手いよー」みたいなコメントを見ると、意味が無いとはいえイラッと来るぜ!来るんだぜ!
Twitterでの反響でも、割とこのPAの話(なんかすごく歌いにくそうだけど、リターン上手く行ってる?オケ散りすぎじゃない?などの心配する声)は盛り上がってて、広いところで歌ったことある人はやっぱそう思うよなあ、と思ったり。
そんな感じで、場慣れの無さが一番目立ってたのがこの人なので、慣れさえすればそれだけで大きく伸びるだろうとは予測がつくし、プロデュース・トレーニングもしやすそうなんですよね。
…でも、「アニソングランプリ」なのにそれってどうよ、「その日その場で」一番上手かった別の人を選ぶべきじゃないのか、と言われれば何も言えねえ。


音程に関しては、具体的にどこの音程がどのくらい外れているのか言ってみろよー、とか酔っぱらい親父的な絡み方をしたいくらいに、音程はそんなに悪くないですこの人。
というか、全体通して聞いて、音程がおかしいレベルのは流石に予選で弾かれてる印象。
厳密に見たら音程が怪しい(というか安定しない)ところは多々あるけど、まあ他もどっこいでしょう、という印象。
ただね、マクロスFのインフィニティは、菅野よう子先生の素晴らしすぎる作曲センス(手癖とも言う)のせいで、要所でハモリを入れたりしないと音外れて聞こえるし、オケとのバランスが良くないと音外れて聞こえやすいし、サビの最後の音はある意味「フェイント」というか「流れに素直じゃない音」だから、「こいつ音痴」という先入観を持って聞くと何を出しても激しく外れて聞こえる罠つき。
これを最後に持ってきたのは、ツッコミどころを増やしすぎるという意味で、ちょっと選曲ミスではあるだろうな、とは思う。


それと「声量」。
素人ほど「声量」があるだの無いだので「歌唱力」を語りがちですが、けっこう的外れだから止めといた方がいいです。
マイクに安定して入るだけの声量があればそれ以上の声量なんて全く必要ございませんので、「声量ある/無いから上手い/下手」とか言うのは、「私、わかってない人です!」と自己紹介してるのと同じでございます。
オンマイクの音楽は、「音量」はPAの方でだいたい作るものなので、「声量足りねーなー」と思ったら、6〜7割は音響の問題で4〜3割は声質の問題で、あんまり声量関係ないです。
まあ、グランプリの人も安定した声量がちょっと欠けているかなーと思う箇所はありますが、それは声質とか歌いまわしの問題で、上のPA疑惑と同様に、もうちょっと丁寧にセッティングすれば簡単に直せるだろうな、という印象です。
あと、特に素人が大ステージで歌うときに気をつけなきゃならないのが、「音量差」の罠ね。
「音量差はつければつけるほど歌唱力がある」…と思われがちですが、オンマイクの場合それはけっこうまちがいで、ある程度の幅に音量差を収めないと、大きすぎる音は割れるし小さすぎる音は鳴らないんだよね。
で、このグランプリの人は見事にその罠にハマっているというか、音量引きすぎな部分が多々あって、それが印象の悪さにつながってるかな。
もしくは、リハ不足とかPAとの打ち合わせミスとか、ステージ慣れの少なさ故に予定より音量が小さいままで歌ったか、ってところかな。
あとはマイクの持ち方とかマイクへの声の入れ方とか。
などなど、「声量」自体は全然関係ないという。
だから、その辺修正したら、それだけで大きく伸びるだろうとは予測がつくし、プロデュース・トレーニングもしやすそうなんですよね。
…でも、「アニソングランプリ」なのに以下同文。


まあ、確かに歌手的には未熟な部分も多い演奏だったけど、イナゴのDisコメントのような歌では全く無かった。
それだけは言っておきたいな、と。
…でも、「アニソングランプリ」以下同文。
運営はとにかく反省すべきだけど、グランプリになった人(ましてまだプロデビューもしてないような人)にひどい言葉が投げつけられているのを見るのは、一人の歌を愛する人間として非常に心が痛むのよね。
なので、なんにもならないことはわかりつつも、こんなエントリを書いたんです。


最後に、痛いニュースの方では紹介されてなかった水木御大のTweetを引用して〆とさせていただきたいと思います。