「丸い響き」とか「柔らかい響き」とか。

格付けチェックの話。


毎年、お正月は「芸能人格付けチェック」とかいう番組を見て過ごすんですよね。
(お盆過ぎに突然こんなことを言い出す強引な導入。)
今年は確か、某所の新年会に引っ張りだされて見られなかったのですが。


で、必ずあるのが、
「○億円のヴァイオリンと、○万円のヴァイオリンを聴き比べて、どっちが高価な方か当てよう!」
ってやつ。


これを見ながら(そして「間違ったー!」という人のツイートを見ながら)毎回毎回、


・どうにも日本では、一般に、「丸い」とか「柔らかい」とか「まろやかな」とかいう響きが「高級品の証」とされている


・しかし、高級楽器ってやつは一般に「ものすごいパワーを持った楽器」であり、ものすごく「華やかな音色」であることが多くて、慣れていない人が聞くとむしろ「強烈」「うるさい」くらいかもしれない


・なので、「より柔らか、というか単なるパワー不足な」安い方の楽器を「高級品」だと思ってしまうのではないか?


というツイートをしているような。


ただし、稀に「安くて楽器としてのパワーは少ないけど、バランスが悪いためにうるさい」楽器を「ひっかけ」に持ってくる年もあるので、「うるさい楽器=高級品」とだけ考えると間違うぜ。


高級ワインとかもね、「まろやかで複雑な…」とか言われてるやつでも、相当飲み慣れてる人以外が飲んだら「渋い!酸っぱい!クサい!刺激的すぎる!」と思うだろうし、それと同じようなことが起きやすいのではないだろうかと。


倍音と音の印象。


こういった、音の持つ印象、パワーの違いはどのようなところで生まれてくるかというと、「倍音の違い」ってやつのせいだったりする。
他にも色々原因はあるけれど、倍音構成ってやつが大きい。


これについては過去にも書いたけれど。
「良い声」の正体…倍音とは - 烏は歌う


もっと簡単なのを引用してくると、
音質と倍音構成 - ピアノの医学:おかしいぞ!そのピアノ練習法 - Yahoo!ブログ

硬い音、華やかな音、柔らかい音ってなんだろう?ハッキリものはないだろうか?


ピアノの調律師に言わせれば簡単である。



硬い音:高次倍音が多いと硬い音
柔らかい音:基音が強く 高次倍音が少ないと柔らかい音
華やかな硬い音:倍音が多い
こもった音:倍音が少ない

と、こんな感じ。


かつて困ったこと。


で、最近の(ってほど最近でもないかもしれないが)、私の身の回りのアマチュア合唱界隈というか素人ボイトレ界隈で困ったことが、
「明るい声と暗い声では、明るい声の方がいい」
「丸く柔らかい声と硬く尖った声では、丸く柔らかい声の方がいい」
「なんか倍音ってやつがたくさん出ているといいらしい」
みたいな、非常に曖昧な認識から、
「明るくて、丸く柔らかい、倍音の多い声を出そう!」
とか無邪気に言っちゃってる人がけっこういること。


これ、注釈つけると
「明るくて(倍音、特に高次倍音が多くて)、丸く柔らかい(高次倍音の少ない)、倍音の多い声を出そう!」
みたいな感じで思いっきり矛盾してるからね。


実態としては、「明るさ重視(倍音の量をとにかく増やしたい派)」と、「丸く柔らかい音色重視(余計な倍音をできるだけ殺したい派)」がいる感じ。
なのに、「明るさ重視派」で本当は倍音を鳴らしまくった「硬質で輝かしい音」を鳴らしたい人が、「柔らかい音色って大事ですよねー」みたいなことを言っちゃってたりする。
もしくは、「柔らさ重視派」で本当は余計な倍音を完全に殺した「ダークで上品な音色」が欲しい人が、「明るい声が合唱の基本!」みたいなことを言っちゃってたりする。
その差異に自覚すらないことも多い。


両方とも、言葉に囚われちゃってるというか、「自分が思う良い声=明るい声」「自分が思う良い声=柔らかい声」という認識しかないから、
「良い声とは何か→明るくて柔らかい声だ」
「明るくて柔らかい声とはどんな声か→良い声のことだ」
みたいなトートロジーになっちゃって、そこから一切進めなくなっちゃうんだよね。


じゃあ理想的にはどうあるべきかというと、
「ちょうどいい塩梅」
を目指すべきかと。
「明るければいい」(倍音が多ければ多いほどいい)ってわけでもないし、「柔らかければいい」(倍音が少なければ少ないほどいい)ってわけでもないし、そのときそのときで最適なバランスを考えるべき。
そのバランスを考え、それを実現するためには、倍音構成の話とかを知っておくといいかもしれない。


こういうことは音に限らず


昔にブクマした記事を読み直してたらこんなのがあったんだけど、この記事と同じような問題ですよねこれ。


辛い日本酒は無い!日本酒はみんな甘いんだ! 〜日本酒講座開催の記録〜 - デイリーポータルZ:@nifty

日本酒業界でいう所の日本酒度が高く糖分の少ないスッキリとした辛口の日本酒がうまい酒ともてはやされたのは、流通の関係だとか、CMの関係だとか諸説あります。

しかし、それがいつの日か「うまい酒=辛口の酒」となり、日本酒度でいう所の辛口とは異なる、米の旨味や甘味の多いしっかりとした味わいの酒をうまい酒と思う人はそのような酒を「辛口の酒」と思う。吟醸酒の様に果物や花のような香りの高い酒をうまいと思う人は、そういう感じの酒を「辛口の酒」と思う。

本来の味を表す意味を離れ「自分のうまいと思う酒=辛口の酒」というような現象が出てきたのです。人の味の感じ方は違うのに言葉は一緒。実にややこしい。

「感覚」を「言葉」で表現するときには、なんとなく耳馴染みのあるテンプレワードを使う前に、少し立ち止まって考えてみると人生が豊かになるかもしれない。