「母音の変化」を大きくつけるべきか否かについて。

あけましておめでとうございました。
新年感ZEROな、去年からの引き続き記事。


復習


母音は口全体の開き具合、舌の位置と形、唇のすぼめ具合によって変化します。

さらに単純化するとこんな感じ。


図の見方や、単純化における注意点は前回参照。


V字モデル


さらに単純化しちゃうとこんな感じになる。

いちいち丸を置くのがめんどうくさいので、以降はこのV字モデルで考えていきます。


母音は「相対的」なものなので、先ほど描いたV字モデルですが、「相互の関係を崩さなければ」このV字を
・V字を大きくしたり小さくしたり(母音の変化を大きくしたり小さくしたり)
・V字を前後のどちらかに寄せたり(母音を作る位置を前にしたり後ろにしたり)
・V字を上下のどちらかに寄せたり(口を閉じ気味にしたり、開き気味にしたり)
することができるわけです。


この「母音のV字」の大きさや位置を意識して自由に操れるようになると、声を大きく変えたり、より便利に使いこなすことができます。


母音は「絶対的」ではなく「相対的」なもの


それと、このモデルを使って母音について考えていく前に、一つ押さえておかないといけないことがあります。
それは、母音は「絶対的」ではなく「相対的」なものであるということ。


どういうことかと申しますと、例えば「い」母音は「最も狭く、最も前舌である」母音ですが、じゃあ口の開きは何cmで…とか、舌の位置は前歯から何cmで…とかは決まっていません。
他の母音などとの対比によって、なんとなく決まります。
あ母音も、最もオープンな母音ですが、じゃあ何cm開いたら「あ」で、そこから何mm閉じたら「お」になって…とかが決まっているわけではありません。
相対的に決まります。


相対的に決まるとはどういうことかというと…

こんな図を描いてみましたが、
・緑の丸の位置は同じ(口を半分くらい開いて、舌の真ん中あたりを高くした状態)
なのですが、
・左図ではV字がだいぶ前寄りかつ下寄り(全体的に前舌で母音が浅め、口は開き気味)なので、緑丸地点での母音は「お」に聞こえる
・右図ではV字が上寄り(舌が前後バランスよくて浅くも深くもない母音、口は閉じ気味)なので、緑丸地点での母音は「あ」に聞こえる
という現象が起きます。
あくまで図上の緑丸の位置は同じ、つまり「口の中の状態」は同じなので「同じ音色」が鳴っているはずなのですが、前後との関係で違う母音に聞こえる、という現象が起きるのです。
(喩え話なので円唇・非円唇母音の要素については省略。)


言葉遊びで、
・「こんとんじょのいこ」と発音してみると、「簡単じゃないか」と「えなりかずき」が言っているように聞こえる
・「えんぺんめん」と発音してみると、「アンパンマン」と「フランス人(?)」が言っているように聞こえる
とかいうネタがありますが、これは母音が「絶対的」なものではなく「相対的」なものであるからです。
しっかり文字通り発音しても、文意が通って(聞く側に思い込みがあって)、それよりも「広い母音」がなければ、上では「お」母音を確かに発音してもフレーズの中では「あ」母音に、下では「え」母音を確かに発音してもフレーズの中では「あ」母音に聞こえてしまうわけです。
対比として、しっかり開いた「あ」母音を発音してから例の文を読んでみると、けっこう印象が違ってくると思います。
それは母音が「絶対的」なものではなく「相対的」なものであるからです。


V字の大きさが大きいか小さいかについて


今日はとりあえず、「V字の大きさ」についてだけ書こうと思います。



適当に図で示すとこんな感じで、各母音を発声する際に、口の中に「大きなV字」を描く場合と、「小さなV字」を描く場合がありますね。
左:「大きなV字」の場合は、母音の変化にともなって口の開き(V字の縦幅)や、舌の動き(V字の横幅)がダイナミックに変化します。
右:「小さなV字」の場合は、母音の変化にともなうの開き(V字の縦幅)や、舌の動き(V字の横幅)の変化は最小限におさえられています。
図では右もある程度の大きさになっているけれども、そこそこ器用に発声できる人なら、「舌や下顎や唇をほんの少し動かすだけ、動かすというよりもちょっと力を入れるだけ」で母音の出し分けができると思います。
イメージ的には、図に描けない、見えないくらいの大きさのV字イメージでも出し分けられるかも。
(↑ちょっと説明が足りないかと思ったので、この2文を追記。)


V字を大きくする利点と問題点


V字を大きくした場合の利点としては、
・母音の変化が明瞭で、言葉を一文字一文字しっかり聞かせられる
・しっかり力の入った、アクティブで力強い印象になる
…というものがあると言えます。
一方で、
・一文字ごとに「声の響き」や「発声用の筋肉のバランス」が変わって、発声が崩れてしまいやすい
・滑らかなフレージングがしにくい
という問題点が出てきます。


なので、「母音のV字を大きくする発声法」は、例えばアナウンスであるとか、とにかく一文字一文字正確に伝えたい場合にはよく使われますが、歌に於いては万能ってわけでもないです。
歌に於いては、例えば「劇団四季」みたいなミュージカル・舞台演劇調とか、ポップスとかだと「いきものがかり」とか「コブクロ」とか「アイドルソング一般」みたいな「そんなに音域広くなくて、歌詞をしっかり聞かせたい」系の音楽だと、この「V字の大きい歌い方」をほどよくするとよくフィットするでしょう。


一方、「サウンド重視で歌詞はそこまで聞かせる必要無いけど、音域や表現の幅が広くてキツイ」系の歌を「V字の大きい歌い方」でやろうとするとけっこう地獄。
とにかく喉が疲れやすくなるし、「音の上下や大小や雰囲気による音色の変化」と「母音による一文字ごとの音色の変化」がぶつかって音色がぶっ壊れやすいです。


V字を小さくする利点と問題点


V字を小さくした場合の利点・問題点は、当たり前だけど上の反対。
利点…
・身体の構造的に楽で自然なポジションを維持したまま発声できる
・滑らかなフレージングをしやすい
問題点…
・母音の変化が潰れて、言葉が伝わりにくくなることがある
・気を抜くとだらしなく暗い印象になる


音の高低が激しい曲とか、難度の高い曲などは、できればあんまり「母音の出し分け」に使う口内の筋肉の働きを必要最小限にして、声帯のコントロールの方に力を振り分けたいところ。
そういう意味で、「必要最小限の力できっちり母音を出し分ける」「小さいV字で発声する」練習というのもときどき必要です。


バランス感が大事


で、結局のところ、どっちかが優れているわけでもなく、程度問題です。
どのような配分が良いのかは、個人によっても違うし時と場合によって全く違ってくるので、その都度考えるしかない。


今日のエクササイズ


・できる限り大きなV字を口の中でイメージしながら
・一番大きく口を開いた「あ」、一番前で狭い「い」、一番奥で狭い「う」を出し
・その3点を繋いで大きなV字を描くように
・あえいえあ、あおうおあ、いえあおう、うおあえい…などと発音してみて
・口の開き具合、舌の動き、唇の動きと、母音や声の響きの変化を観察してみる


・できる限り小さなV字を口の中でイメージしながら
・口の開きをほとんど変えず(下顎を動かさず)、舌のごくごく微妙な動きだけで
・あえいえあ、あおうおあ、いえあおう、うおあえい…などと発音してみて
・口の開き具合、舌の動き、唇の動きと、母音や声の響きの変化を観察してみる


・両者を交互にやり比べてみて
・口の開き具合、舌の動き、唇の動きと、母音や声の響きの変化を観察してみる


次回に続く


で、「母音のV字」による声のコントロールは、V字の「大小」だけではありません。
このV字を「前後のどちらに寄せるか」「上下のどちらに寄せるか」ということを意識することによって、声というものは大きく変わってきます。
次はその辺を。


余談

"id:jiangmin-alt 舌を微動だにさせずに「あいうえお」と言えるので、この舌の位置の図はでたらめだと思う。"
というコメントがあったのですが、「でたらめ」と言われるのは心外なので、その辺について考えてみますと…


・まず、「Aというやり方があると言っている」「私はBというやり方ができた」「だからAはでたらめ」という論理展開になっていますが、これはどうなんでしょうか。
・「この図の通りにやっても図の通りの発声ができないから、この図はでたらめなのではないか」ということならわかるのです。
・しかし、単に「他のやり方でもできる」というなら、この図が唯一絶対のやり方であるとは言ってませんし。


・母音の出し方について、「このような位置関係で発声すれば、意識的に母音の出し分けができる」という図であり、普段無意識にやってしまいがちな「母音の出し分け」を意識化するための図なのです。


・例えば、「あ→お→う」という母音の変化に於いては、舌の位置などを全く変えずとも、唇をすぼめていけば「あ→お→う」と発音していくこともできます。
・「お母音は、あ母音より少し狭くて深い響きの母音である」「う母音は、お母音よりもっと狭くて深い響きの母音である」、だから「あ→お→う、という順に発音を狭くしつつ後ろにもってくると、自然かつ明瞭に発音することができるよ」ということが言いたい図なのです。
・「あ→お→う」と発音するときには、必ずこのように舌を移動させなけなければならない…ということは言っていないつもりなのですが、その辺の説明が足りないのでしょうか。


・また、”舌を微動だにさせずに”という状態についての疑問があります。
・「前舌」と「後舌」というのは、「舌を前後に動かす」という動きだけでなく、「舌の前後どちらが高くなっているか」「舌の前後どちらに力が入っているか」という要素によっても変わってきますが、そのくらいの変化すらもないのでしょうか。
・母音変化(特に、い→え→あ)にともなって「舌の、力が入る部分が変わる」という現象が起こっているなら、この記事でいうところの「可能な限り小さいV字で母音を出し分けできている」という状態になっているのではないか思います。


・また、舌を微動だにさせずに、ということは、下顎は動かすのでしょうか、動かさないのでしょうか。
・下顎が動くなら、下顎を前後させたり上げ下げしたりすれば、舌をそのように動かすのと同じ効果があります。
・なので、下顎がもし動いていたなら、その変化を図と対象させてみれば、そうそう図と変わらない状態になるのではないかと思います。


・その他、IPA図を略してV字モデルにするときに、「日本語には円唇の前舌母音、非円唇の後ろ舌母音は無い(ということになっている)」「日本語には中舌、後ろ舌の『い』とかが無い」などなどの観点から、かなりがっつり大胆に略しています。
・元のIPA図の方に疑問があるのでしょうか、私の略図(V字モデル)にのみ違和感があるのでしょうか。
・元のIPA図で言えば、前舌で最も狭い母音の「i」と、中舌で狭い「iに横棒」と、後舌の「uuがくっついた文字」とは、日本人には全て「い」に聞こえますが、音の要素的には別物である、と言えます。
・後舌の「o」を狭めていっても「i」にはならず、「uuがくっついた文字」という母音にしかならないはずで、(一般に日本語で「い」とされる)「i」が出したければ前舌的な要素を入れないと発声は不可能なはずです。
・この場合の「uu」を「い」として扱っていいのか悪いのか、というのは、「母音というのは相対的なもの」という辺りから考えてみて欲しいと思います。
・また、非常に重要な問題なので、今後改めて書いてみたいと思います。