声域チェックの話。

声域チェックの前に


概ね押さえておきたいところを箇条書き。


・チェストボイスの音域は、男性の場合は2オクターブより少し広いくらい、女性の場合は2オクターブより少し狭いくらい。
・チェストボイスより上にミドルボイス音域とヘッドボイスが音域が半オクターブずつくらい存在する。
・合計すると、一般的な人間の声域は概ね3オクターブ前後。
・それ以上の声域を求めるには、特殊な技能とかが必要になってくる。


・一般的な傾向として、低声の人ほど音域が広く、高声の人ほど音域が狭くなる傾向がある。
・チェストボイスの最低音は声帯の大きさや厚さによって物理的な限界があり、トレーニングしても変わることはない。
(最低音域を使いこなせるようになるにはそれなりにトレーニングが必要なので、低音トレーニングが無駄なわけではない。)
・チェスト・ミドル・ヘッドボイスの声区の切り替えポイントとなる音域(喚声点)も、基本的には声帯の大きさや厚さで決まるので、トレーニングしても大きく変わることはない。
(トレーニングしてると、意識的により早く切り替えたりより遅く切り替えたり、切り替わる感覚を少なくしたりはできるようになる。)


・同性なら基本的にはそんなに大きく声域って変わらないので、「喚声点」が平均より大きくずれている場合、声域チェックの方法がおかしいかもしれない。
(半オクターブくらいずれてたら、とりあえず要注意かな。本とかで平均とされているあたりから3度くらい違うともう「例外的」に高かったり低かったりするレベルだとは思う。)
・同様に、「喚声点」が同じなら理論上は「最低音」もほぼ同じなはずなので、そこが大きくずれている場合、声域チェックの方法がおかしいかもしれない。
(例えば、喚声点が低いのに最低音が変に高いとかいう場合は、歌い手が訓練不足で最低音が出せてない場合もあるし、喚声点を見誤っている可能性もある。)
・同様に、「チェストボイスが1オクターブ未満しか出せない!」とか「チェストボイスで余裕で3オクターブ出せるよ!」って場合、声域チェックの方法がおかしいかもしれない。


声域チェックに関する注意


ある程度以上に歌い込んでいる人だと「最低音」も「喚声点」もそれなりにはっきりわかっているものなのですが、歌唱初心者の人とか、我流でよくわからないトレーニングばかりやってきた人の場合はけっこう誤認しがちです。
また、成長期には声があまり安定しませんし、成人後もほんのすこしなら声域が変わっていくことはあります。
なので、初心者の人とか、若い人の声域チェックはある程度定期的にやっていくべきですし、「部活合唱的」な環境ではマメに声域チェックをするのがいいでしょう。


あと、チェックする側に「思い込み」があっても、なかなか声域チェックって上手くいかない。
「この人は低い声が魅力なんだよなー、話声も低めだし、見た目も明らかにベースだろ」みたいな先入観を持っていると、低音のチェックが甘々になったり、高音チェックで「あまり頑張らせない」発声チェックをやらせたり…それで実態より低い声として認識する、とかありがち。
教育心理学で言うところの、「ラベリング効果」「ピグマリオン効果ってやつですな。
あらゆる事象に対して「まっさらの感覚」でいることは大変難しいので「先入観」を持つこと自体は決してダメなわけではないのですが、それに自覚的であること、先入観と異なる事態が起こっていないか慎重に観察することが大切です。


声域チェックをするフレーズについて


そういうわけで、声域チェックに関しては、ちゃんとやるにはしっかりした「基準」とか「方法論」とかが必要。
色々なフレーズを使って声域チェックをすると思うのですが、このフレーズの選択次第でけっこう声域って左右されますので注意が必要です。


例えば「喚声点」と「その前後の声質や癖」を調べるにしても、とあるボイストレーナー式のやり方だと…


・「ドレミファソファミレド」というメロディーで半音ずつ上げていく
→音階の幅が狭いので、ごまかしが利きにくく、喚声点やその前後で起きがちな悪い癖を見抜きやすい
→これ以上1フレーズ内に最高音と最低音の差があると、色々と雑になってしまって喚声点が見つけにくい
→逆にこれ以上フレーズ内の高低を狭めると、狭すぎて必要以上に「チェストボイス引っ張りすぎで上手く高音だせない」状態になりがち


・発音は「Ah(あー)」
→子音がないのでごまかしが利きにくく、喚声点やその前後で起きがちな悪い癖を見抜きやすい
→また、「あ」母音はその人の「素」が出やすい


・男性はE3(mid1E)、女性はA3(mid2A)からスタートする(明らかに低音・高音な人は1音程度上下させる)
→しっかりチェストボイスを鳴らしつつ、いわゆる「低音を掘った発声」になりにくい範囲からスタート
→これ以上低くからスタートすると、チェストボイス特有の力みが出やすく、高音が出しにくくなるので喚声点が実際より低く見られがち
→逆に、これ以上高くからスタートすると、準備もなしにいきなり喚声点に入るので、喚声点が不安定になりやすい


・そこからスタートとして、出せるところまで出してもらう
→喚声点より上の様子も見たい
→チェストからミドルの喚声点だけでなく、ミドルからヘッドの喚声点も見たい


…みたいな感じで、非常にロジカル。
「必ずこうすべき!」とは思わないけれど、参考にしたい。


例えばこれを「ドミソミド」とか「ドーソードー」とか「ドミソドソミド」とかの音の間隔の開いた軽いフレーズにすると、喚声点を上手く処理できる人は非常に楽に高音を出せるのであんまりチェックにならないし、上手く処理できない人は「高音がいきなり出せなくなった!」みたいな感覚になって実際より高音が全然出なくなったりする。


発音に関しては、過去に「母音によって発声って全然違うよ!」って記事を過去に書いたけど、そういうことです。
母音関係まとめ - 烏は歌う
子音に関しても、やっぱり「声帯をしっかり閉じる方向にコントロールしやすい子音」とか「声帯の力みを抜く方向でコントロールしやすい子音」とか色々ありまして、子音によってもけっこう声域って左右されがちなんだよね。